生徒の質問~界面活性剤の疎水基のはなし~
中学生のクラスの9-10月にかけてのテーマは、表面張力(surface tension)でした。
ソープボートの実験をした後、界面活性剤(surfactant)について学びました。
界面活性剤の分子は、2つのパーツからできています。一つ目は水に溶けやすい親水基(hydrophilic group)、二つ目は水に溶けにくい疎水基(hydrophobic group)です。
下図でいうと、丸いところが親水基、にょろにょろが疎水基です。
英語ではこんな表現を導入しました。
“Surfactants have two parts; a water-soluble head (hydrophilic group) and a water-insoluble tail (hydrophobic group).”
下線の2つの単語に注目してください。
2つの単語に共通するのは “hydro-” という接頭辞です。これは「水」を表します。
しかし、後半(接尾辞)は異なります。
“phile”はギリシャ語由来で「好む」、”phobe”は同じく「嫌う」を意味します。”philic”と”phobic”というのは、その形容詞表現ですので、「親水の」と「疎水の」と訳されます。
「なんでoilphilicって言わないんだろう?」
一人の生徒の発言に、「確かに!」生徒たちの顔が上がりました。
“oleophilic” (“oilphilic”とは言わない)という言葉は確かに存在するのですが、界面活性剤に関する解説に登場することはありません。ただし、”lipophilic” という言葉は見かけます。
英和辞典によっては、どちらも「親油性の」と訳されている場合がありますが、厳密には少し意味が違います。
注目すべきは接頭辞です。
“oleo-“は「油」、”lipo-“は「脂質」です。
油は脂質の一種ですので、”lipo-“の方が”oleo-“より広い意味を持っていることになります。つまり、油だけに反応するなら”oleophilic”ですが、油以外の脂質にも反応するなら”lipophilic”ということです。
溶けるものは油に限定されるわけではないようですので、”lipophilic”という表現の方が適切かと思います。
とはいえ、“hydrophobic”という言い方が一般的です。界面活性剤のそのパーツが水に溶けないことは間違いないので、最も誤解の少ない表現だからではないかと思います(もし理由をご存じの方がいたら教えてください)。
あるいは、界面活性剤のどんな特徴について説明するかによっても、適切な表現は変わってくるかもしれません。例えば、台所用洗剤で界面活性剤が活躍するのは、油汚れを落とすとき。それならば、「親水基 (hydrophilic)」と「親油基 (lipophilic)」と説明する方が、読み手には分かりやすいのではないでしょうか?
生徒が疑問を持ち、それを共有してくれることは大変嬉しいことです。指導する立場の私たちに必要なのは、その疑問を拾ってあげること、そして一緒に考えてみることだと思っています。
もしかすると最終的に明確な答えは出ないかもしれませんが、考え方のプロセスをお互いに共有することが大事なのではないでしょうか。